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TRPGライター・柳田真坂樹による、もっと楽しい異世界マンチキン! 第1回:本作が題材とするTRPGとは?

まず、TRPG(Tabletalk Role-Playing Game)について説明しよう。

TRPGとはパソコンやゲーム機などを使わず、参加者同士の会話と想像力で進行するRPGだ。アナログゲームの一種だが、ボードやカードといった物理的なコンポーネントを必ずしも使用せず、“対話による物語体験”を主軸にするのが特徴である。

ゲームの目的は、参加者全員でひとつの物語に参加し、展開させてゆくことである。参加者は自分とはまったく異なる個性や能力をもつキャラクターとなって、時に迷い、時に困難と闘いながら、自分なりの物語の結末に至るというものだ。

ここ数年は有名なストリーマーがゲームのようすを配信することもあり、単語だけでも見かけることが多くなったハズだ。

もう少し具体的にこのゲームのことを説明しよう。

TRPGはおおむね、二種類の参加者によって遊ばれる。

一つ目は「プレイヤー」であり、自らの「プレイヤー・キャラクター(PC)」を通して物語に参加する。PCには、作品世界に応じた特技や能力が設定されていることが多い。

もう一つは「ゲーム・マスター(GM)」「ダンジョンマスター(DM)」と呼ばれる参加者だ。GMは物語の背景や、発端となる事件を設定し、PC以外の登場人物(NPC)やモンスターなどを操作する。

実際のTRPGでは、GMがプレイヤーに、彼らのキャラクターが置かれている状況を説明するところから始まる。たとえば――

「あなたたちが目を覚ますと、薄汚れた部屋にいます。部屋には古いパイプベッドだけがあり、全員がそこに手錠でつながれています――」

などというふうにだ。

プレイヤーはその情報をもとに、自身のキャラクターの行動や決断を考え、実行してゆく。たとえば――

「オレのキャラは元警官で手錠の扱い方を知ってるし、仕事のために靴底にはロックピックを隠してある。これで、手錠をはずせないか?」

GMはプレイヤーの宣言した行動をもとに、何が起こったかを説明する。何が起こるのかGMにも定かでないときには、サイコロやトランプのカードなどを使って、どのような結果になるのかを決める。

結果の説明を受けてプレイヤーは、さらに自分のキャラクターに行動を取らせる。

このプロセスを繰り返して物語を進めてゆくのである。

このTRPGという“物語”を遊ぶゲームは、人類史でもっともドラマチックな物語、すなわち“戦争”を再現して遊ぶゲームから生まれた。

19世紀末から20世紀にかけて、欧米ではミニチュアの兵隊を並べて戦争ごっこをするのが楽しまれていた(アンデルセンの童話『鉛の兵隊』に登場するミニチュアがそれである)。子どもだけでなく大人も夢中になり『タイムマシン』などを書いたSF作家H.G.ウェルズは、そのためのゲーム『Little Wars』をデザインし、出版している。

そして1970年代、アメリカのゲーム愛好家たちがこの“ミニチュア・ウォー・ゲーム”から新たなゲームを作り出した。

まず、1体のミニチュアで複数の歩兵を表していたのを、1体が1人の兵士を表すことにして、少人数での戦いを遊べるようにした。こうしてゲームで活躍するのは、その他大勢の兵士ではなく、1人のキャラクターとなった。

次に、当時流行していたファンタジー小説(『指輪物語』など)を取り入れ、歴史上の戦場だけでなく、ドラゴンやオークが登場するファンタジーの戦場も遊べるようにし、そして小グループの兵士たちの活躍が重要となる敵の拠点や城、すなわち“ダンジョン”を戦いの舞台として用意した。

彼らはこの“ダンジョンを探索してドラゴンと戦うゲーム”を遊ぶうち、このゲームが戦闘以外にも多くのことが可能で、いろいろな思いつきを試すのがおもしろいこと、それをうまく解決するには書かれたルールだけでなく、その場で判断を下す審判的な役割の参加者が必要なこと、そして審判的な役割の参加者――すなわちゲーム・マスター――が物語の枠組を作ることで冒険がどんどん拡がることを発見した。

かくして、“データとルールでキャラクターを表現すること”と、“ゲーム・マスターが物語世界をデザインし運営すること”が結びつき、“架空のキャラクターを操って物語を体験する遊び”、RPGが生まれた。そして1974年、世界初の商業TRPGとして『ダンジョンズ&ドラゴンズ(Dungeons & Dragons)』が登場する。この作品は本作にも多大な影響を与えており、次回第2回ではその詳細を解説していく。

このゲームはさまざまな方向に発展し、影響を及ぼした。

コンピュータと結びついて生まれたCRPGについては、もはや例を示す必要すらないだろう。

RPGが扱う物語も、ファンタジーから始まり、ホラー、SF、ミリタリー、スーパーヒーローものと、ほとんどのジャンルを網羅している。

なかでも、アメリカの怪奇小説作家H.P.ラヴクラフトによる「クトゥルフ神話」を元にした『クトゥルフ神話TRPG』はここ数年で動画配信者による実況が大人気となり、今では小中学生にも広く知られ、遊ばれている。

だが、RPGがゲームの世界にもたらした最大の功績は、“プレイヤーが登場人物として物語に関わる遊び”という構造を作ったことだ。

RPGとは異なるルーツを持つさまざまなゲームが、“登場人物として物語に関わる”という形を取ることで、プレイヤーに鮮烈なプレイ経験をもたらした。

たとえば――

今ではすっかりパーティーゲームの定番となった「人狼」は、村人を襲う人狼を会話によって探り出す推理ゲームだが、遊び方の一環として、キャラクターを演じるやり方もあり、それによってプレイに犯人捜し以上のドラマを持たせることができる。

昨今人気の「マーダー・ミステリー」も、登場人物の1人として事件に関わり、その真相を探るということで、映画や小説の“観客として物語を鑑賞する”のとは異なる、濃密な物語体験を得ることができる。

私たちは、TRPGによって“物語の内側に入る”という遊び方を手に入れたのだ。


D&D翻訳家・作家
柳田真坂樹

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